なぜ今、森林・林業を考えるのか
豊かな自然を活用するために――。
ユネスコエコパークや南アルプスジオパーク(中央構造線エリア) に指定された素晴らしい自然環境を有してる長野県伊那市。そしてこれらの自然環境エリアは、そのほとんどが森林に覆われており、この豊かな森林が伝統と文化を育み、私たちの暮らしを支えてきました。
しかし、伊那市を支える産業構造の中に、林業が登場しないのです。
それは、なぜか?
伊那市は、電気・精密・機械などの高度な加工技術産業や、食品などの健康長寿関連産業、肥沃な土地と豊かで良質な三峰川水系の水をいかした米作りや、野菜・果樹・花卉(かき)などの農業が盛んです。このような精密工業・食品工業・農業を中心としたバランスの良い産業構造がある一方で、林業は、知らず知らずの間に「営み」の地位を失っていったのです。
その理由には、さまざまな要因がありますが、生活に不可欠な燃料(エネルギー)としての活用がなくなったこと、地元産の木材の使用が減ったことも一因です。
今こそ、森林を見直す時が来ています。
“自然資本”と伊那市
伊那市の保有する広大な森林資源は55,074ヘクタール。
この森林資源の保護と有効活用こそが、今後の伊那市をよりよく、将来にわたって住みやすい都市にするために欠かせないことと考えています。
伊那市の魅力を活かしつつ、森林を経済、文化、防災、環境などすべての局面において有効活用し、伊那市を発展させるために、この地域にある豊かな自然を“資本”と捉えることを提唱しています。
“自然資本”は、森林・土壌・水・大気・生物資源など、自然によって形成される資本すべてを指し、自然資本から生み出されるフローを生態系サービスとして捉えることができます。自然資本の価値を適切に評価し、管理していくことが、私たちの生活を安定させ、企業の経営の持続可能性を高めることに繋がるのです。
“50年”という時間軸で――
伊那市では、「山(森林)が富と雇用を支える 50年後の伊那市」を理念とし、「伊那市50年の森林(もり)ビジョン」を策定し、「ソーシャル・フォレストリー都市」を宣言しました。
ソーシャルフォレストリーは、「森林の管理を林業関係者だけでなく地域住民の参加によって行い、森林資源の利活用は諸産業と協働的に進め、そこから生まれるさまざまな利益は地域へ還元するなど、森林・林業活動を地域社会総出で実践する」ことを意味しています。
この構想に基づいて、森林のあるべき姿を見据えて行動することが、自然と人が共生する豊かな都市を作り出すと考えています。
50年という時間軸であれば、さまざまな変化に柔軟に対応でき、またこれからこの地域を背負って立つ若者が50年後の森林の姿を確認することもできます。
50年の時間の中で、必ずや林業が産業の基本構造に組み込まれる日がやってきます。私たちは、これまでの森林の変遷について分析し、現状を正確に捉えることで、50年後の未来予想図に森林のあるべき姿を描きました。それが「伊那市50年の森林(もり)ビジョン」です。